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金沢地方裁判所 昭和32年(ワ)343号 判決

原告 国

訴訟代理人 栗本義之助 外四名

被告 谷口卓爾

主文

被告は同人名義の別紙目録記載の定期預金債権中元金九十七万二千五百円につき訴外谷口産業株式会社の預金債権であることを確認する。

原告のその余の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告指定代理人等は、「被告は同人名義の別紙目録記載の定期預金は訴外谷口産業株式会社の預金債権であることを確認する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

原告国(所管庁金沢国税局)は、訴外谷口産業株式会社に対し昭和三十二年七月十三日現在金二百六十四万七千二十九円の租税債権を有するところ、右訴外会社がこれを支払わないので、同日右訴外会社が訴外株式会社福井銀行に対して有する別紙目録記載の定期預金を差押え、その債権差押通知書を債務者谷口産業株式会社に対し同月十四日に、第三債務者福井銀行に対し同月十五日にそれぞれ送達された。よつて原告は、右福井銀行に対し国税徴収法第二十三条の一に則り右定期預金の支払を求めたところ、該定期預金の名義が被告になつており、被告から原告に対する支払につき異議の申出があるので、過失なくして債権者を確知することができないとの理由で、昭和三十二年八月十七日福井地方法務局へ供託番号昭和三十二年金第四百号をもつて同日までの元利合計金百六万千百二十円を供託した。

しかし本件定期預金は、実質上の権利者は谷口産業株式会社であり、同会社が預金に当り他からの差押処分等を免れるため形式上被告名義を借りたものに過ぎない。谷口産業株式会社は訴外北昇造、同北栄次郎、同北嘉平次、同北武雄に対し合計金二百十万円の金銭債権を有していたところ、この債権を昭和三十一年七月十八日訴外笹山作助に譲渡し、その対価金として即時額面金二十万円の小切手及び同月三十一日額面金六十二万五千円並びに同金百十万円の各小切手を受取り、この小切手を福井銀行金沢支店を通じて取立て、手持金二万円を加えて金百九十四万五千円とし、一時訴外谷口忠和外名義で福井銀行金沢支店に預入れ、更に福井銀行本店へこれを振替させ、若干預け増して金二百万円とし、同年八月一日被告及び谷口忠和の各名義で金百万円宛の定期預金とした。その被告名義の分が本件定期預金である。しかるに被告はこれを争うので本訴に及んだ次第であると陳述し、

立証〈省略〉

被告法定代理人等は、原告の請求はこれを棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、

原告主張の事実中、昭和三十二年七月十三日本件定期預金が金沢国税局により差押えられた旨の通知のあつたことは認めるが、その余の点はすべて否認する。被告は訴外祖父谷口由松から昭和三十一年八月一日金百万円を財産分与として譲受けたので、これを福井銀行金沢支店を通じ同銀行本店へ被告名義で定期預金にしたものである。

昭和二十八年四月谷口産業株式会社は資本金五十万円で貸金業を営むに至つたが、資金不足のため谷口由松から、同年九月同人の福井県今庄郵便局及び福井銀行今庄出張所からの預金払戻金八十万円と同人の手持金並びに同人の知人からの融資金を合せた金二十万円との合計金百万円を、同人宅で現金で借受けた。しかしその後同会社は貸倒れ及び利息未収が続出し、そのうえ不当過重の税金を課されたので遂に解散することになり、同会社に対して債権を有する訴外谷口由松、同山崎治郎右エ門、同谷口清一、同柄谷忠雄が貸付金の支払を求めてきたので、同会社は訴外北昇造から回収した金百九十二万五千円の小切手中、金八十二万五千円を現金化し、これに手持金を加えて現金九十万円とし、これと額面金百十万円の小切手をもつて右借金の弁済に当てることにし、谷口由松に対しては弁済金百万円を同人の代理人訴外谷口静枝に支払つた。谷口静枝は谷口由松に命ぜられ右弁済金を直ちに福井銀行金沢支店を通じ同銀行本店へ被告名義の定期預金にした。そしてその預金証書は被告が所持している。

このように本件定期預金は被告のものであるところ、昭和三十二年七月十三日金沢国税局から、同年七月二十日福井銀行からそれぞれ本件定期預金につき差押のあつた旨の通知があつたので、金沢国税局に対し同年七月十九日、福井銀行に対して同年七月一十四日それぞれ異議申立てし、福井銀行に対し同年八月十九日右定期預金の支払を求めたが、国税局の差押を理由に支払を拒み福井地方法務局へ供託した。

仮に本件定期預金が被告のものでないとしても谷口由松のものである。

仮に本件定期預金が谷口産業株式会社のものであるとするも同会社は昭和三十一年十一月一月解散し目下清算中であるから清算人に対し清算金分配の要求をなすべきであり滞納税金のため直接差押することは国税徴収法の規定に違反する。また本件定期預金が谷口産業株式会社のものであることの確認判決を得てない昭和三十二年七月十三日付で滞納処分したことは違法である。

よつて原告の請求は失当であると陳述し、

立証〈省略〉

理由

成立に争のない甲第一号証、同第三乃至第二十一号証並びに乙第七号証及び証人増沢敏雄、同藤島与四秀の各証言を総合すると、訴外谷口産業株式会社は昭和二十八年四月十五日設立され、同三十一年十月十七日株主総会で解散決議し、同年十一月一日解散登記をしたものであること、同会社は訴外北昇造、同北栄次郎、同北嘉平次、同北武雄に対して有する債権全部金額合計金二百十万円を、昭和三十一年七月十八日訴外笹山作助に対価金百九十五万円で譲渡し、その対価金の支払期日を同年八月二十日と定め即日手付金として額面金十万円の小切手二通を受取り、残金は同年七月三十一日額面金六十二万五千円及び金百十万円の二通の小切手をもつて支払を受けたので、残金二万五千円を減額し、以上四通の小切手を福井銀行金沢支店を通じて取立て、これに手持現金二万円を加え合計金百九十四万五千円とし、これを訴外谷口忠和外名義で福井銀行金沢支店から同銀行本店へ送金させ、これに谷口産業株式会社代表者谷口四郎右エ門の二男訴外谷口惺雄名義の普通預金から引出した金五万五千円を加え、合計金二百万円を右谷口四郎右エ門の五男である被告及び同四男である訴外谷口忠和の各名義で福井銀行に各金百万円宛の定期預金としたものであること及び谷口産業株式会社は原告に対し、なる滞納租税債務を有しているものであることが認められる。

年度   税目  納期(昭和年月日) 滞納税額(本税及び加算額)

昭和二九年度 法人税 二九、一〇、二九      三三、一四九円

三一    〃  三一、 六、二一     四二九、三六〇円

〃     〃  三一、一一、三〇   一、五一五、一四〇円

〃     〃  三一、一一、三〇     六一〇、一四〇円

〃     〃  三一、一二、三一      五九、二四〇円

合計                   二、六四七、〇二九円

なる滞納租税債務を有しているものであることが認められる。

被告は、本件定期預金債権は被告のものであると主張し、証人谷口由松、同谷口照男は右主張にそう証言をし、右各証言により成立を認める乙第八号証、同第九号証、同第十一号証には本件定期預金債権は被告のものである趣旨の記載はあるが、証人松田積造の証言並びに、同証言により成立を認める甲第二十二号証には、谷口由松が本件定期預金になつた金百万円は自宅の壷に貯えたものであるが、これを被告の学資として贈与した旨述べており、当裁判所は右各証言を措信することができないし右乙号各証をもつて認定の資料となし得ない。なお被告は本件定期預金を被告名義にしたことの法律原因につき認むべき立証をなさないので、被告の主張は容れられないし、他に前認定を覆えすに足る証拠はない。

結局以上認定の事実によると、谷口産業株式会社はその有する滞納税金等の債務によりなされる差押等を免れるため、同会社財産に属する金百九十四万五千円を同会社代表者の子供名義に預金することにより財産隠匿を計つたものと推認することができ、特段の事情の認められない限り被告名義の本件定期預金中には、右会社の金百九十四万五千円の半額金九十七万五千円及び谷口惺雄名義の普通預金から払戻しを受けた金五万五千円の半額金二万七千五百円が含まれているものということができる。しかし右谷口惺雄名義の普通預金が谷口産業株式会社の預金債権であることを認むべき何等資料がない。

よつて原告の請求は本件定期預金債権中元金九十七万二千五百円につき谷口産業株式会社の債権であることの確認を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないものとしてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民裏訴訟法第九十二条但書を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 小山市次 干場義秋 志鷹啓一)

目録〈省略〉

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